前回、輪っかの分子について調べてみました。

その中にはファブリーズに含まれるシクロデキストリンのように輪っかの中に分子を入れる性質を持つものがあることがわかりました。

そこで今回はどんな分子がその中に入るのか、その大きさなどを自分なりにまとめてみました。

※正確な情報は論文を見てくださいね。


シクロデキストリン

シクロデキストリンの情報は株式会社シクロケムのサイトに分かりやすく載っていました。
一番小さいアルちゃんでは0.5 Åくらいで、動物性脂肪とかを中に取り込むそうです。
一応自分でも単結晶を見てみると
酸素から酸素で8.419Åでした。
しかし原子は点ではないので、大きさを持った球としてファンデルワールス半径を考えてみます。
ファンデルワールス半径はWikiのを参考にすると

O:1.52Å
C:1.7Å
H:1.2 (1.09)Å

らしいので、今回は酸素の半径2つ分を除いて実際の空孔のサイズを求めると
8.419-1.52*2=5.379Å

よって自分の計算とサイトの値が大体同じくらいになりました。(有効数字ってなに)


ここでベンゼン環1枚の大きさは

HからHの緑色の部分にファンデルワールス半径を加えて
4.298+1.2*2=6.698Å
となりました。

よってα-シクロデキストリンにはベンゼン環は入らないっぽいですね。
論文が古いのばっかなので確認してません。

クラウンエーテル

次にクラウンエーテルを見てみます。

クラウンエーテルには種類がたくさんありますが、ここでは代表的な3つについて取り上げます。
まずは一番小さい 12-Crown-4-Etherを見てみます。
CCDCで見つけた単結晶のデータを見てみると

内側は3.617Åより、Oの半径を含めて3.617-1.52*2=0.577Å
外側は7.090より、Hの半径を含めて7.090+1.2*2=9.49Å

12-4はLiイオンを包接することが知られています。
Liのファンデルワールス半径は1.82Åであり、直径は3.64Åとなるから絶対入んないじゃん!と思いましたが、よく考えたらイオンなのでサイズは変わってきます。
このサイトによるとリチウムイオン半径は0.59Åとなっており、直径は1.18Åとなりやっぱ入らなそうに見えます。
しかしクラウンエーテルはベンゼンと違って柔軟なため形を変えることができます。
Liイオンが入ったデータを見てみましょう。

内側は3.646Åより、Oの半径を含めて3.646-1.52*2=0.606Å
外側は6.503Åより、Hの半径を含めて6.503+1.2*2=8.903Å

内側はわずかに大きくなりましたが、外側はむしろ小さくなっていますね。
そもそもLiイオンは中にすっぽり入るのではなく、すこし上下にずれて相互作用していることが確認できます。
そのためLiイオンより小さい空孔でも包接できるのですね。
分子の大きさを見てみると
ぎっしり詰まっています。
裏を見ると
Liイオンがひょっこりしています。
これよりLiイオンをO部分で包接することでO部分の環が少し開き、メチレン部分がそれによって内側に閉じるような形になることがわかりました。
ちなみに電子分布は
酸素が向いている方は電子豊富なのに対して
メチレン部分は
真っ青です。
なんか勝手に酸素が単結合していると電子供与で全体的に電子豊富になると思っていたのですが結構引っ張られているのですね。


疲れたので残り2つは簡単に紹介します。
15-crown-5-etherは
内側:1.14Å
外側:10.46Å
であり、Naイオン(イオン半径:0.99Å)を包接します。

18-crown-6-etherは

内側:2.65Å
外側:11.72Å
であり、Kイオン(イオン半径:1.37Å)を包接します。


ピラーアレーン

ではピラーアレーンはどうでしょうか。
ピラーアレーンのサイズについてはこの論文にまとまっていました。
それによると空孔のサイズはピラー[n]アレーンをPnとすると

P5:4.7Å
P6:6.7Å
P7:8.7Å

でした。
自分でもP6を計算してみると
CからCで9.993Åより、ファンデルワールス半径を考慮して
9.993-1.7*2=6.593Å
でした。
大体同じ値ですね。

先ほどのベンゼン環のサイズよりギリギリ小さいと感じますが、そんな精密な値を求めたわけではなく、分子の結合は伸縮することを考慮すると、ベンゼン環がちょうど入りそうな大きさだと感じます。

でもさすがにP5には入らないだろーと思っていたら、
入りますね。
これみるとビオロゲンとかピリジニウムが入ってますね。(ベンゼン環にNが入ったやつ)
でもこれによると固体ではガス状のベンゼン環が入らないらしいです。
溶液だと分子がびよーんと伸びる感じなんですかね。

あとファンデルワールス半径は単原子なら上記の値でいいらしいですが、分子では隣の原子と重なりあったり引っ張り合うため小さくなるそうです。
そのためあくまで目安として上記のファンデルワールス半径の値を用いることとします。

シクロパラフェニレン

最後にCPPを見てみましょう。
CPPのサイズは9からでしたがこちらにまとまっていました。
代表として9から12を見ていきます。

9:12.5Å
10:13.9Å
11:15.3Å
12:16.6Å

この値はファンデルワールス半径は考慮されていないっぽいです。
この中で一番小さい9について考えると、ファンデルワールス半径より
12.5-1.7*2=9.1Å
となります。
これはピラー[7]アレーンより少しだけ大きい値ですね。
ベンゼン環の6.6Åよりも大きいため、ベンゼン環は環の中に入りそうですが環が大きすぎるのでするっと通り抜けそうです。

またこれによるとCPPは5つ小さいCPPやフラーレンを包接するようです。
[10]CPP⊃C60を考えると
[10]CPPの空孔は
13.9-1.7*2=10.5Å

C60は
CからCまでが7.077Åであり、ファンデルワールス半径より
7.077+1.7*2=10.477Å
が外周のサイズとなります。
そのためめちゃくちゃぴったり入ることがわかります。

次に[10]CPP⊃[5]CPPを考えると
[5]CPPは
CからCが7.066Å、外周は
7.066+1.7*2=10.466Å
よってこれもほぼぴったりな大きさだということがわかります。
しかしさっきの論文によると、55度傾いて入る場合もあるそうです。