溶媒っていろいろありますよね。

水と油は混ざらないとかものによって変わってきます。

今回はこの理由について考えていきたいと思います。



結論

溶かしやすさはロンドン分散力水素結合極性によって決まる。

説明

・ロンドン分散力(dD)
ロンドン分散力とは分子内の電子の瞬間的なゆらぎによって生じる電荷によって引き合う力のことです。
分子が大きいほど電子が大きく揺らぐためロンドン分散力は大きくなります。
分散力は英語でDispersionのため、パラメータはdDと表されます。

・極性(dP)
極性は電気陰性度によって電子密度が偏り、生じたプラスとマイナスの電荷で引き合う性質のことです。
分極は英語でPolarizationよりdPと表します。

・水素結合(dH)
水素結合は電気陰性度の大きい原子に結合したHと電気陰性度の大きい原子が引き合う結合です。
OH…OHとかがあります。
要はHが関わる極性ですね。
Hの交換なども行われます。
水素結合はHydrogen BondよりdHと表します。

溶解性に影響するこの3つの要素をハンセンパラメータ(HSP:Hansen Solubility Parameter)と言います。
それぞれのパラメータが似ているほど溶けやすくなります。

このHSPを用いる考え方は混合溶媒にも対応していて、3つのパラメータのベクトルの足し算で共貧溶媒の溶かしやすさも計算できるそうです。

具体例

主に極性から具体例を見てみました。

水分子はOがHから電子を引っ張って、Oが近くに電子を多く持つようになりマイナスの電荷を帯びます。
逆にHはO側に電子を引っ張られるため、周りに電子が少なくプラスの電荷を帯びます。
このように電子密度が偏ることを極性と言います。
この電荷によって水分子同士はプラスとマイナスを引き合わせるように集まります。
HSPは(dD,dP,dH)=(15.5,16,42.3)です。
プロトン性が高いですね。

ヘキサン

一方で油である有機溶媒を考えてみましょう。
簡単な構造のヘキサンを見てみると
炭素と水素だけでできているため特に電子を引っ張るOとかがないので電子密度に偏りがありません。
この場合は無極性と言います。


ヘキサンと水を混ぜると、水は極性によって水分子同士で集まるため、水分子の間にヘキサンが入り込めません。
よって水とヘキサンは分離するため、互いに溶けないということです。
HSPは(dD,dP,dH)=(14.9,0,0)です。
極性がなくてOHとかもないのでロンドン分散力だけあります。

エタノール

ではエタノールではどうでしょうか。
エタノールはO-Hの部分で極性があります。
しかし左側の炭化水素の部分は無極性です。
そのため炭化水素の部分で有機溶媒に溶け、OHの部分で水に溶けます。
つまりエタノールがあれば水と油を溶かすことができるのです。
HSPは(dD,dP,dH)=(15.8,8.8,19.4)です。
プロトン性がまあまあ高いですね。

クロロホルム

クロロホルムはこんな構造です。

立体的にみると

と四面体の形をしています。
C-Cl結合ではClがCから電子を吸引して電子密度に偏りがあります。
しかし四面体のため、ベクトルが打ち消しあってC-Clの極性はC-H軸のC側にやや存在することとなります。
極性があるなら水に溶けやすいかというとそうではありません。
なぜなら水に溶けるにはO-Hのような強いイオン性の極性が必要だからです。
O-HはHがOに電子をあげてO-とH+のイオンになるほど極性が大きいです。
クロロホルムはそこまでの極性がないため水にあまり溶けません。
HSPは(dD,dP,dH)=(17.8,3.1,5.7)です。
Clは分子半径が大きいのでロンドン分散力が大きいですね。

ジクロロメタン


同様に考えるとジクロロメタンはC-Cl側にやや極性があります。
HSPは(dD,dP,dH)=(17,7.3,7.1)です。
分極がクロロホルムより大きくなっていますね。
確かにジクロロメタンの方がクロロホルムより双極子モーメントを打ち消していない形をしているのであってそうです。

1,2-ジクロロエタン

1,2-ジクロロエタンではC-C軸が回転するため構造によって極性が変わってきます。

平均を考えて小さい極性を持つってことですかね。

この塩化物溶媒は似た構造ですが、沸点や極性などの物性が異なってきます。
そのため使い分けることが重要ですが、その選び方にはやはり経験が大きいのかなーって思ってます。。
HSPは古いHSP1のデータしかなく、それは計算方法が新しいHSP2と異なるためわかりませんでした。

アセトン

アセトンはC=Oで大きな極性を持っていて、さらにメチル基という無極性の部分も持ちます。
そのため水やさまざまな有機溶媒を溶かすことができます。
HSPは(dD,dP,dH)=(15.5,10.4,7)です。
まあ確かに他の有機溶剤と似たような値のような感じがしないでもないです。

まとめ

同じような性質を持つと同じような力で引き付けられて同じようなもので集まるってことでした。
確かに強い力で引き付けるものは弱い力のものも引き付けはするけど、強く引き付けあう方が集まりやすいですもんね。
結構似ている構造でも大きく性質が変わってくるのは面白いですね。

参考