吸収

分子に光を当てると分子が光を吸収し、透過光の強度が照射光よりも小さくなります。

そのため透過光の強度と照射光の強度から吸収した分を求められます。

照射する光の波長を変えて分子に当てれば、分子が吸収しやすい波長のときに透過光の強度がより小さくなるため、分子の吸収波長を求められます。


蛍光

まず蛍光がどのようなものかざっくり説明します。

電子の動き

まず分子が光を吸収すると、光はエネルギーのため分子内の電子はエネルギーを受け取ってさらに高い準位に移動します。
このとき上記の図のように電子がいろんな移動の仕方をします。
この一重項や三重項というのは量子力学上の概念であるスピン多重度2S+1が由来であり、電子のスピンを+1/2と-1/2で表したスピン量子数mというものがあり、Sをmの和とした全スピン量子数として計算できます。
一重項は向きが異なるスピンが同じ数だけあるためスピンが互いに打ち消しあいS=+1/2-1/2=0よりスピン多重度2*0+1=1、三重項は同じ向きのスピンが2つあるためS=+1/2+1/2=1よりスピン多重度2*1+1=3となります。

スピン多重度の物理的な意味は分からないのでなんとなく分かった気になって読み飛ばしてください。

とにかく光というエネルギーを分子が受け取ると電子がそのエネルギーを使って移動するということです。

エネルギーの遷移

分子が光エネルギーを受け取って電子が移動すると、分子のエネルギー状態は変化することがわかりました。
そのエネルギー準位を図にしたのが以下の図です。

S 0 S 1 S 2 T 1 v=0 v=1 基底状態 励起状態 吸収 振動緩和 内部変換 無放射失活 蛍光 項間交差 りん光

なんか漢字がたくさん並んでいますがそこまで気にしなくていいです。
vは振動準位で、分子はぶるぶる震えたり結合がびよーんと伸びたりしますが、そのぶるぶるのびのび具合によってエネルギー準位も変化するということです。
光エネルギーを吸収して高い準位に上がった後、ぶるぶるのびのび等の振動にエネルギーを使ったり、溶媒分子にエネルギーを与えることで準位が下がる振動緩和や内部変換が起きます。
振動緩和と内部変換は人によって意味の定義が異なっている?
そしてS1に落ち着き、熱を放出する無放射失活、光を出す蛍光が生じてS0に戻ります。

りん光は?

また違うルートもあり、S1からT1に移動してりん光を出すルートもあります。
ということは蛍光を測定したいのにりん光がでてくるかもしれないじゃん!と思うかもしれません。
しかし、りん光はほとんど観測されません。
その理由を少しだけ説明します。
りん光が観測されにくいということはT1からS0に遷移しにくいということです。
この遷移しやすさ、遷移確率は3つの要因から決まります。

1つ目は電子軌道の重なりです。
電子軌道の重なりが小さいほど電子が移動しにくいからです。

2つ目はスピンの違いです。
スピン状態が異なると電子がくるっと反転しなくてはいけなく、電子が言うにはスピン反転するのは疲れるらしいので移動しにくくなります。
そのため先ほど述べたスピン多重度の異なる状態への遷移はしにくいです。

3つ目は振動の違いです。
先ほど述べた通り分子はぶるぶる踊っています。
それはwikiにあるgifを見れば一目瞭然です。
さてこのダンスは急に全く異なる動きに変えられるでしょうか。
答えは変えにくいです。
そのため分子くんもびよーんと震えているとき、その状態からスムーズに変えられる動きなら遷移しやすいということです。

長くなりましたが遷移しにくい遷移を禁制遷移、しやすいものを許容遷移と言います。
りん光のT1からS0はスピン状態が異なるため禁制遷移であり、遷移しにくい、すなわちT1状態でいる時間が長い、寿命が長いということです。
寿命が長いと、りん光を放出して遷移する前に同じスピン状態である三重項状態の酸素や溶媒分子との衝突によりエネルギーを奪われてしまいます。
そのためりん光は室温では観測しにくく、液体窒素で冷却するなど特定の条件下でしか観測できないというわけです。

蛍光測定

なんか無駄に長くなりましたが測定について説明します。
吸収測定で分子が吸収しやすい波長を求めた後、その波長の光を励起光として蛍光測定をします。
吸収と同様に光を当てると分子が吸収して、残った分が透過光となります。
吸収測定では照射光と同じ波長の透過光の強度から測定していましたが、蛍光測定ではそれ以外の波長も感知することで蛍光を測定できます。

これで蛍光強度と波長はわかるわけですが、蛍光にはもう一つ重要な情報があります。
それが蛍光量子収率(効率)です。
分子は照射光を全て吸収するわけではなく、また吸収した光すべてを蛍光にするわけではありません。
そのため蛍光量子収率はさらに2つにわけることができます。
それが内部量子収率と外部量子収率です。

内部量子収率は吸収した光に対してどのくらいの蛍光を放出するのかの割合です。

外部量子収率は照射光に対してどのくらいの蛍光を放出できるのか、すなわち内部量子収率に吸収率を考慮した値となります。

ということで吸収と蛍光の測定についてまとめました。
量子力学は文字式が多くて意味が分からないので遷移確率の部分は雰囲気で書いていることをご留意ください。

参考

・蛍光量子収率
・スピン禁制
・りん光
・S2